「大阪へ行って欲しい」と、総務部長から言われてから約1週間。
僕は今、東京駅発の大阪行きのぞみ194号に乗っている。
ちょうど東京駅を出て品川駅に着くか着かないかというくらいの地点を新幹線で走っていた。
窓際なので窓の外を眺めていると、大都会東京のビル郡が左から右へと猛スピードで通り過ぎていく。
そんな景色を見ていたら左隣に座っていた総務部長が声をかけてきた。
「大阪までは新幹線で3時間くらいかかるから、まぁ、ゆっくりしてなさい」
そうは言われても、これから行く初めての大阪。
不安と緊張でゆっくりもしてられない。
思えば東京は有楽町の会社へ就職し、新人として頑張っていこうと思いきや、
立て続けに色々な事が起こったな・・・
まずは山下に大怪我をさせた仕事中の事故。
彼女はまだ病院から退院していない。なのに僕は大阪へ行く事になり
ちゃんと謝る事も、怒られる事もなく事をうやむやにしてしまった。
そして同期会で仲良くなった稲葉。
彼女からはピエロのキーホルダーをもらった。
そのキーホルダーは新幹線の荷物棚の上に載せてる僕の旅行カバンの中に大切に眠っている。
掴みどころがない性格だったけど不思議な魅力を持った女性だったな。
で、今回の大阪転勤。
もしかして、この大阪転勤は僕の数々の失態が招いた左遷というヤツではないだろうか?
そもそも新入社員の中で何故僕だけ大阪なのか。
明らかにプラスな要因ではない。と考えていると新幹線は名古屋駅を通り過ぎていた。
それから何時間経っただろうか。
僕と総務部長は新幹線で新大阪駅に到着。
そこから地下鉄を経由して本町駅に降り立ち、駅から徒歩15分くらいの場所にブロードシェアリング社の大阪支社があったのだ。
「ここが我が社の大阪支社だ。桜井君はここで1年間働いてもらう事になる予定だ」
と、大阪支社のビルに入り3階の受付で待っている時、そう言った総務部長の言葉にちょっと希望が出てきた。
ずっと大阪勤務になるのかと思ったら、1年間という期限があったのだ。
じゃあ1年後には東京に帰れる。
稲葉や山下にまた会える。
そう思うと心の底が熱く嬉しくなってくる様な気がした。
「ようこそ大阪支社へ。こちらへどうぞ」
大阪支社の奥から、何やらちょっとガラの悪そうな色黒でキツネ目の男性が出てきて僕らを応接室に案内してくれた。
実はこの色黒でキツネ目の男、僕にとって非常につらく厳しい社会人生活を味あわせてくれる張本人で、
出来れば絶対に会いたくない人物だという事が翌日明らかになったのだ・・・
〜第12話 色黒でキツネ目の男の正体〜